フェイクニュースに関する最新研究まとめ:2018

2016年の米大統領選以降「フェイクニュース」が世界中で問題となり、誤情報の拡散やソーシャルメディアに関する研究は、特に欧米を中心に飛躍的に増えています。今回のブログでは、2018年に入って海外で発表された最新研究の一部を紹介します。

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 アメリカ

Selective Exposure to Misinformation: Evidence from the consumption of fake news during the 2016 U.S. presidential campaign - Guess, Nyhan & Reifler 

2016年米大統領選の際のフェイクニュース消費について分析した論文。米国人2,525人のウェブサイト閲覧データを収集した点が注目された。主な調査結果は: 

  • 閲覧全体の60%は、10%の保守派読者層によるものだった
  • ファクトチェックの試みは、ほとんど読者に届いていなかった

 

The spread of true and false news online - Vosoughi, Roy & Aral 

ツイッター創業以来10年以上にわたる、大量のツイッターデータに基づく米マサチューセッツ工科大(MIT)の調査。2006年から2017年にファクトチェックされたコンテンツのうち、"False"(うそ)と判定されたものは、"True"(真実)と判定されたものより早く、広く拡散されていた。

  • ボットは、リアルニュースと偽ニュースを同じように拡散していた。つまり、偽ニュースがより拡散される要因は、ボットというより人間であることが示唆される
  • 偽ニュースにはより新規性があり(more novel)、そのためリツイートされる可能性が高い。しかし、新規性が唯一の理由とは断定できない

ただ、ファクトチェックされていないコンテンツは対象に含まれていない。筆者の一人は、研究内容が拡大解釈されており、今後「更なる研究が必要」としている。

 

Rumor response, debunking response, and decision makings of misinformed Twitter users during disasters - Wang & Zhuang

ソーシャルメディアでの誤情報拡散は、特に災害時は深刻な問題となりうる。Buffalo大の研究チームは、ハリケーン・サンディ(2012年)やボストンマラソン爆破テロ事件(2013年)に関連するツイッター投稿20,000件以上を分析し、ユーザーが噂や誤情報にどう反応するかを調べた。ユーザーの行動パターンとして、①誤情報を拡散 ②確かめようとする ③情報に疑問を投げかけるーーの3種類を分析。結果は、

  • 86〜91%の人が、リツイートまたは「いいね」で誤情報を拡散していた
  • ツイートで質問したり、リツイートしたりして、情報の真偽を確かめようとしたのは5〜9%
  • 元のツイート内容が間違っているなどと指摘したのは1〜9%

チームは「ツイッターユーザーはうわさの検知能力が低く、すぐに拡散してしまう」と結論づけており、上記MITの研究結果とも重なる内容。

ヨーロッパ

Measuring the reach of "fake news" and online disinformation in Europe - Fletcher, Cornia, Graves & Nielsen

 欧州のフェイクニュース定量化を初めて試みた論文の1つ。偽ニュースの影響が深刻とされるフランスとイタリアに焦点を当てた。結論としては、影響は予想より限定的だった。

  • オンラインユーザーの3.5%を超える月間アクセスを集めた偽ニュースサイトはなかった。最もアクセスがあるサイトでも、1%以下
  • 一方、主要メディア(仏フィガロと伊ラ・レプッブリカ)のサイトはそれぞれ22.3%と50.9%のアクセスがあった
  • ただしフェイスブックでは、一部の偽ニュースサイトが生み出したインタラクションは、主要メディアサイトのものと同じかそれ以上だった

 

A Field Guide to Fake News and Other Information Disorder - Bounegru, Gray, Venturini & Mauri

欧州のリサーチ機関「Public Data Lab」によるプロジェクト。フェイクニュースの拡散経路、政治ミームツイッター上のトロール(荒らし)行為などを分析するためのデジタル手法を示したガイド。欧州選挙のほか、アメリカ大統領選を例にした実践的内容。単にフェイクニュースのコンテンツ内容や形態だけでなく、「拡散性」や「拡散される文脈」に焦点を当てているのが特徴。デジタルツールが多数紹介されており、分析手順や結果を可視化した図も掲載。※ 日本語版は日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が作成、無料で公開中

アジア

 Information Disorder in Asia: Overview of Misinformation Ecosystem in Indonesia, Japan, and the Philippines - Kajimoto, Kwok, Chua & Labiste 

欧米中心の研究が多い中、アジア各国における偽ニュースの影響を分析したレポート。第一弾はインドネシア、日本、フィリピンの概況とケーススタディ香港大学JMSC(Journalism and Media Studies Centre)のプロジェクトで、Google News Labが支援している。

 

Architects of Networked Disinformation : Behind the Scenes of Troll Accounts and Fake News Productions in the Philippines - Ong & Cabañes

フィリピンの政治キャンペーンにおいて偽ニュース・ヘイトスピーチの拡散を担う部隊(architects of networked disinformation)の実情を、インタビューや参与観察の手法で明らかにした論文。広告・PRストラテジストが政治家からマーケティングを請け負い、世論を操作する構造・手法を詳細に分析している。

  • 広告・PRストラテジストはSNSインフルエンサーや、ローカルの偽アカウント運営者に金銭を支払い、彼らを通じてキャンペーンを展開
  • ボットによる拡散はごく限られていた

 

米Poynter Instituteは主要研究と要約(英語)をまとめたデータベースを作成していて役立ちます。Nieman Labのこちらの記事(英語)では、フェイクニュースやファクトチェック、VRなどに関する論文をまとめています。