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How false content disseminated during Japan's 2017 election
Japan doesn't really come up as a topic when people talk about misinformation and disinformation, but the internet in the country is not free from hoaxes and false rumors.
Last year, the Japan Center of Education for Journalists launched a collaborative verification project to monitor misinformation related to the lower house election held on Oct. 22.
The blog post below provides details of what types of false content disseminated and how. We focused on election-related content and it's only a fraction of the "fake news" ecosystem in the country but worth reading given little research has been done in Japan (The project was about a year ago but took us until now to translate the article into English!).
For details of how our project ran, I wrote a piece about how this project ran on First Draft in 2017.
... And please also see other article that mention the project.
フェイクニュースに関する最新研究まとめ:2018
2016年の米大統領選以降「フェイクニュース」が世界中で問題となり、誤情報の拡散やソーシャルメディアに関する研究は、特に欧米を中心に飛躍的に増えています。今回のブログでは、2018年に入って海外で発表された最新研究の一部を紹介します。
アメリカ
・Selective Exposure to Misinformation: Evidence from the consumption of fake news during the 2016 U.S. presidential campaign - Guess, Nyhan & Reifler
2016年米大統領選の際のフェイクニュース消費について分析した論文。米国人2,525人のウェブサイト閲覧データを収集した点が注目された。主な調査結果は:
- 16年10月7日〜11月14日に、アメリカ人の4人に1人がフェイクニュースサイトを閲覧
- 閲覧全体の60%は、10%の保守派読者層によるものだった
- ファクトチェックの試みは、ほとんど読者に届いていなかった
・The spread of true and false news online - Vosoughi, Roy & Aral
ツイッター創業以来10年以上にわたる、大量のツイッターデータに基づく米マサチューセッツ工科大(MIT)の調査。2006年から2017年にファクトチェックされたコンテンツのうち、"False"(うそ)と判定されたものは、"True"(真実)と判定されたものより早く、広く拡散されていた。
- ボットは、リアルニュースと偽ニュースを同じように拡散していた。つまり、偽ニュースがより拡散される要因は、ボットというより人間であることが示唆される
- 偽ニュースにはより新規性があり(more novel)、そのためリツイートされる可能性が高い。しかし、新規性が唯一の理由とは断定できない
ただ、ファクトチェックされていないコンテンツは対象に含まれていない。筆者の一人は、研究内容が拡大解釈されており、今後「更なる研究が必要」としている。
Thanks to @jjaron for some clarifying comments to my first diagram. Here's a second one that fills in some more detail. The outer circles point to areas where we need further research! pic.twitter.com/KhJth1zFnp
— Deb Roy (@dkroy) 2018年3月15日
・Rumor response, debunking response, and decision makings of misinformed Twitter users during disasters - Wang & Zhuang
ソーシャルメディアでの誤情報拡散は、特に災害時は深刻な問題となりうる。Buffalo大の研究チームは、ハリケーン・サンディ(2012年)やボストンマラソン爆破テロ事件(2013年)に関連するツイッター投稿20,000件以上を分析し、ユーザーが噂や誤情報にどう反応するかを調べた。ユーザーの行動パターンとして、①誤情報を拡散 ②確かめようとする ③情報に疑問を投げかけるーーの3種類を分析。結果は、
- 86〜91%の人が、リツイートまたは「いいね」で誤情報を拡散していた
- ツイートで質問したり、リツイートしたりして、情報の真偽を確かめようとしたのは5〜9%
- 元のツイート内容が間違っているなどと指摘したのは1〜9%
チームは「ツイッターユーザーはうわさの検知能力が低く、すぐに拡散してしまう」と結論づけており、上記MITの研究結果とも重なる内容。
ヨーロッパ
・Measuring the reach of "fake news" and online disinformation in Europe - Fletcher, Cornia, Graves & Nielsen
欧州のフェイクニュース定量化を初めて試みた論文の1つ。偽ニュースの影響が深刻とされるフランスとイタリアに焦点を当てた。結論としては、影響は予想より限定的だった。
- オンラインユーザーの3.5%を超える月間アクセスを集めた偽ニュースサイトはなかった。最もアクセスがあるサイトでも、1%以下
- 一方、主要メディア(仏フィガロと伊ラ・レプッブリカ)のサイトはそれぞれ22.3%と50.9%のアクセスがあった
- ただしフェイスブックでは、一部の偽ニュースサイトが生み出したインタラクションは、主要メディアサイトのものと同じかそれ以上だった
・A Field Guide to Fake News and Other Information Disorder - Bounegru, Gray, Venturini & Mauri
欧州のリサーチ機関「Public Data Lab」によるプロジェクト。フェイクニュースの拡散経路、政治ミーム、ツイッター上のトロール(荒らし)行為などを分析するためのデジタル手法を示したガイド。欧州選挙のほか、アメリカ大統領選を例にした実践的内容。単にフェイクニュースのコンテンツ内容や形態だけでなく、「拡散性」や「拡散される文脈」に焦点を当てているのが特徴。デジタルツールが多数紹介されており、分析手順や結果を可視化した図も掲載。※ 日本語版は日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が作成、無料で公開中
アジア
・ Information Disorder in Asia: Overview of Misinformation Ecosystem in Indonesia, Japan, and the Philippines - Kajimoto, Kwok, Chua & Labiste
欧米中心の研究が多い中、アジア各国における偽ニュースの影響を分析したレポート。第一弾はインドネシア、日本、フィリピンの概況とケーススタディ。香港大学JMSC(Journalism and Media Studies Centre)のプロジェクトで、Google News Labが支援している。
・Architects of Networked Disinformation : Behind the Scenes of Troll Accounts and Fake News Productions in the Philippines - Ong & Cabañes
フィリピンの政治キャンペーンにおいて偽ニュース・ヘイトスピーチの拡散を担う部隊(architects of networked disinformation)の実情を、インタビューや参与観察の手法で明らかにした論文。広告・PRストラテジストが政治家からマーケティングを請け負い、世論を操作する構造・手法を詳細に分析している。
米Poynter Instituteは主要研究と要約(英語)をまとめたデータベースを作成していて役立ちます。Nieman Labのこちらの記事(英語)では、フェイクニュースやファクトチェック、VRなどに関する論文をまとめています。
フェイクニュース調査のためのガイド 日本語版が完成!
今年に入ってから邦訳を進めてきたフェイクニュース調査のためのガイドA Field Guide to 'Fake News' and Other Information Disorders の日本語版が完成しました。ガイドは無料ダウンロードが可能です。
ガイドは全部で5章。偽コンテンツがフェイスブック上でどう拡散するかや、ツイッターの「荒らし」行為を行うユーザーの特定など、オンライン上で調査を行う手法が紹介されています。ぜひ、記者や研究者の方に活用していただければ嬉しいです。
200ページを超えるボリュームですが、カラフルで図解も多いです。データを可視化するためのさまざまなツールや方法も掲載されているので、ビジュアルでどう見せるかの参考にもなるかもしれません。
偽コンテンツや誤情報は、インターネットの海に浮かんでいるだけなら「フェイクニュース」にはなりません。このガイドも、コンテンツ一つ一つの内容というより、人々がシェアやコメント、リアクションをすることで「フェイクニュース」になるという「拡散性」に重きを置いています。調査目的に合わせて手法を応用できる内容なので、今後ぜひ実際に使ってみたという方の感想を聞いてみたいです。
ガイドは、欧州のリサーチ機関Public Data Labが作成し、日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が許可を得て邦訳しました(英語版はこちら)。
日本語版作成に当たっては、Readyforのクラウドファンディングを通じてたくさんの方にご支援いただきました。翻訳やデザインをサポートしてくださった記者の方々、アドバイスをくれた仲間にも感謝しています。本当にありがとうございました。
ガイドについては、JCEJのこちらの記事もご覧ください!
YouTubeにもはびこる偽ニュース アルゴリズムが生む、陰謀論動画の「ネットワーク」
世界で月間約15億人のユーザーを持つYouTube。
フェイスブックやツイッターに比べ、YouTube上の偽ニュースはこれまで見過ごされがちでしたが、米では2月に起きたフロリダ州の銃乱射事件をきっかけに批判が高まっています。データに詳しい研究者は、大量の不適切動画をつなぐ「ネットワーク」が存在するとも指摘しています。
Reuters InstituteのDigital News Report(2017年)によると、米ではYouTubeがフェイスブックに次いで人気のSNSで、約56%が利用。日本ではLINEやツイッターをおさえて1位(47%)です。17%がYouTubeでニュースを見ると答えました。
YouTubeのオフィシャルブログによれば、ユーザーは1日に約1時間以上、YouTube動画を携帯電話で視聴。子供向けアプリ「YouTube Kids」も世界約30ヵ国で提供されています。
陰謀論動画、再生20万回
米でYouTubeの不適切コンテンツが改めて批判の的になったきっかけが、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で17人が死亡した銃乱射事件。
事件後、生存者の高校生に関する偽ニュースが拡散。YouTubeでも陰謀論が飛び交い、生徒に対するオンライン・ハラスメント被害が起きました。
中でも、生存者の1人で銃規制を訴えたDavid Hoggさんに関しては、事件をでっち上げて被害者のふりをする「クライシス・アクター(crisis actor)」だと主張する動画がYouTubeに投稿され、一時トレンドセクションのトップに表示されました。削除される前、動画は20万回以上再生されています。
Business Insiderの記事によると、YouTubeは「トレンドセクションに表示されるべきではなかった。信頼できるニュースソースからの動画を含んでいたため、システムにより誤って分類されてしまった」と認めています。
9千本の「陰謀論ビデオネットワーク」
YouTubeでは、1つの動画を見終わると「次の動画」としておすすめ動画が表示されます。ディープ・ラーニングのアルゴリズムで、ユーザーが興味を持ちそうな関連動画が表示される仕組みですが、研究者はこのアルゴリズムが偽ニュースや不適切なコンテンツの拡散を後押ししていると指摘します。
大学教授でデータ・ジャーナリストのJonathan Albright氏は、フロリダ銃乱射事件に関連する動画を出発点に、YouTubeのアルゴリズムに潜って分析しました。
YouTubeのAPIで「クライシス・アクター」と検索、「次の動画」で表示されるものを収集していくと、最終的に約9千本の陰謀論ビデオネットワークが確認され、再生回数は実に40億回に上りました。
ネットワークの中には、過去の事件やテロに関する陰謀論、フェイクニュースの動画が含まれていました。アルゴリズムにより、ユーザーはこうした動画を次々に「おすすめ」されることになります。
「結果がこんなにショッキングだとは思わなかった」とAlbright氏は述べています。
「YouTubeの陰謀論ジャンルは、乱射事件やテロなどが起きるたびに大きくなります。(中略)検索、おすすめのアルゴリズムによってこうした動画は自然とつながり、影響力を増すのです」
ニュースサイト「Motherboard」も、独自の分析から、YouTubeが自身のポリシーに反するコンテンツを放置していると指摘しています。
Motherboardは、YouTubeが削除した動画をモニター・記録するツールを構築。暴力やネオナチのプロパガンダ、ヘイトスピーチ動画などが、数ヶ月、時には何年も視聴できる状態だったことを明らかにしました。さらに、ユーザーが不適切なコンテンツを報告した後も対処されない場合がありました。
対策追いつかず
批判を受け、YouTubeは新たなテクノロジーなども取り入れて取り締まりを強化していますが、追いついていないのが現状です。
YouTubeのスーザン・ウォシッキーCEOは3月13日、正しいコンテンツかどうか議論されている動画の近くにWikipediaの情報を表示し、ユーザーに判断材料を提供する「Information cues」という対策を発表しました。ただ、Wikipediaの情報は誰でも編集できることから、効果については疑問の声も上がっています。
・参考記事:YouTube will use Wikipedia to combat conspiracy theories(BBC)
2018年には、ポリシー違反のコンテンツに対処するチームを1万人に増やすとしています。
メディアリテラシー教育、米で法整備進む 超党派で推進
歴史や数学を学ぶのと同じように、インターネットの嘘と事実を見分ける方法も学校で教えようという機運が高まるアメリカ。「フェイクニュース」問題の深刻さを受け、メディアリテラシー教育を法律でも後押しする動きが出ています。
5州で導入、11州が検討中
「フェイクニュース」によって、党派間の対立や政治的分断が進んでいると指摘される中、法整備の動きは超党派で進められています。州によっては教員だけでなく、リテラシー教育に重要な役割を果たす図書館司書、保護者もこうした動きをサポートしています。
メディアリテラシー教育を推進し、モデル法案も提案している団体「Media Literacy now」によると、2017年には計5つの州で関連法案が成立。このほかにも11州が法案を提出もしくは検討中で、2018年も導入は加速しそうです。
各州の動き
・ワシントン州では昨年4月、メディアリテラシーやインターネットの安全な使用を推進する法律が成立しました。法律では、メディアリテラシー教育が学校のカリキュラムにどう組み込まれているかを見直すため、図書館司書や教員が現在どんな授業を行っているかを調査するよう、学校に求めています。また、メディアリテラシーを学ぶのに適した教材や取り組みを集め、リンク集を紹介するウェブサイトの設置も義務付けました。
・コネティカット州でも昨年6月に、教員、図書館司書、PTAや専門家などでつくるメディアリテラシー評議会を設置する法案が成立。評議会は、州の教育委員会に、推奨する取り組みや教え方についてアドバイスを行います。
・ロードアイランド州の法律は、メディアリテラシーを基本教育プログラムに組み込むことを検討するよう、学校に求めています。州または国の、メディアリテラシー教育に取り組む団体と連携して行います。
・ニューメキシコ州も、地元の学校が適したプログラムを開発し、レッスンを提供することを求める法律があります。州知事は将来的に「教科に関わらず、カリキュラム全体に(リテラシー教育を)組み込みたい」としています。
このほか、ニューヨーク州、アリゾナ州、ハワイ州などでも、検討が進んでいます。
Media Literacy now の、メディアリテラシー教育推進ビデオ
中高大学生のフェイクニュースを見分ける能力に関する調査を行った、米スタンフォード大チームのSam Wineburg教授は、規制やテクノロジーではなく、教育で問題を解決するべきだと述べています。
一方で、法整備の動きに関しては次のようにも指摘しています。
すでにいっぱいのカリキュラムに、(メディアリテラシーという)新たな選択科目を詰め込むのは、基礎が揺らいでいる家に新しいペンキを塗るようなものだ。いいアピールにはなるかもしれないが、根本的な問題解決にはならない...教育そのものを立て直す必要がある。
・スタンフォード大の調査に関する以前のブログ記事:デジタルネイティブは、フェイクニュースを見抜けるか?
AP通信の記事によれば、こうした取り組みを推進する財源の不足や、教員への負担増の懸念もあり、法律は現在のところ自主的な取り組みを促す内容に留まっています。
海外のメディアリテラシー教育、ターゲットは10代 米国の試み
前回は、メディアリテラシーを10代から教える欧州の試みを紹介しましたが、2016年の大統領選以降「フェイクニュース」の問題が注目されているアメリカでも、ネット上のうそにだまされない方法を教えようという機運が高まっています。老舗新聞社からネットメディアまで多様な報道機関が協力しているほか、Eラーニング教材の普及でも一歩先を行っています。
・欧州編はこちら:海外のメディアリテラシー教育、ターゲットは10代 欧州の試み
主要メディアが協力「The News Literacy Project」
ABCニュース、AP通信、ブルームバーグ、CNN、BuzzFeed ーー 。メディアリテラシー教育に取り組む「The News Literacy Project (NLP)」には、テレビ局や新聞社、ネットメディアまで、約30の主要メディアが協力パートナーとして名を連ねています。
NLPは、ロサンゼルス・タイムスの元記者が設立した非営利団体。2009年からボランティアのジャーナリストたちが、ネット上の嘘と事実の見分け方について中高生に授業を行ってきました。
米大統領選に関連する偽ニュースがネット上で問題となった2016年には、checkologyというEラーニングプログラムを開始。情報の分類方法、噂を見抜くスキル、アルゴリズムなどについてのレッスンがあり、これまで米国内外で10,000以上の教育関係者が登録し、生徒たちが活用しているといいます。
8-10週間かけて実践的に学ぶ「アフタースクール(放課後)プログラム」や、自分たちで授業を構築したい教育機関へのコンサルティングも提供。今後はスペイン語の授業やモバイルアプリの開発も予定されています。
NYT、13-19歳の「メディアリテラシーチャレンジ」
老舗のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)も取り組みを進めています。
同紙は1998年から「The Learning Network」で学習用教材やコンテンツを無料提供していますが、サイトによると、フェイクニュース問題への対応法については「これまでにないほど教員からの質問が多い」といいます。
NYTが始めた新しい試みが、13-19歳にニュース消費について主体的考えてもらう「Media Literacy Student Challenge」。①自分がどんなニュースにどうアクセスしているのかを、最大48時間調査 ②より良いニュースの読み方、入手方法について考える ③アイデアをエッセイまたはビデオにまとめるーーの3段階タスクに生徒が挑戦し、全米メディア・リテラシー教育協会(National Association for Media Literacy Education)のスタッフが審査します(現在、応募は締め切り済)。
メディアの知識があると、だまされにくい
実際、メディアやニュースが作られる仕組みについて理解している人は、偽情報にだまされにくいことを示唆する研究も行われています。
米イリノイ大の研究では、約400人を対象に、ネットに流れる噂や陰謀論を信じる傾向と、メディアリテラシーの関係性を調査しました。
ニュースやメディアに関する知識が豊富な人ほど、「オバマ元大統領は米国生まれではない」「ワクチン接種と自閉症には関連がある」といった情報を信じる割合が低く、保守派とリベラル派に共通してこうした傾向が見られました。自分の政治的信念に近い内容でも、同様の結果でした。
アメリカでは、メディアリテラシー教育を後押しする法整備の動きも出始めました。次回以降のブログで紹介したいと思います。