海外のメディアリテラシー教育、ターゲットは10代 欧州の試み

 インターネット上の嘘を見抜く方法、何歳から学べばいいのでしょうか。

海外では、10代の早いうちからメディアリテラシーを教える試みが始まっています。今回は、ジャーナリストや研究者、教育現場が連携し、地域横断的に取り組みを進める欧州の事例を紹介します。

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BBCのジャーナリストが教室へ

ネットに若いうちから親しんでいる世代でも、ソーシャルメディアで拡散される誤情報を見極める能力は高くないという結果が、複数の研究により示唆されています。

 ・参考:デジタルネイティブは、フェイクニュースを見抜けるか?

そんな中、英国営放送BBCは、2018年3月から11-18歳を対象に最大1,000校で、フェイクニュースに関するプログラムを開始すると発表。ジャーナリストたちが実際に学校に赴くほか、オンラインでの講座やイベントが予定されています。イギリス国内の教育関係者に広く情報を提供するメーリングリストも設置され、登録が可能です。

無料のオンライン教材や指導ビデオを、すべての学校に提供。英人気アニメ「ひつじのショーン」の制作で有名なアードマン・スタジオが作ったゲーム教材も用意されています。BBCの担当者によると、オンライン教材は将来的に誰でもアクセス可能になるそうです。

このプログラムに先駆け、BBCは英サルフォード大と共同で、9-14歳が「フェイクニュース」をどう認識しているかについて1年にわたる調査を行いました。メディアリテラシーを教えるのは10歳からでも早くないと訴える同大のBeth Hewitt氏は、BBCに次のように述べています

"多くの子供たちがフェイクニュースの存在は理解していますが、実際目にしたとき、判断できるでしょうか。そこをサポートするのが教育です。(中略)若者が「ニュースを信じてもいいんだ」と思えなくなってしまったら、メディア自体を信じなくなります。世界でどんなことが起きているかさえも、知ろうとしなくなるでしょう"

欧州全体で取り組む

ヨーロッパでは、欧州委員会(EC)が11月にフェイクニュースに関する専門家グループを設置するなど、地域全体で取り組みを強化。「Media Literacy for All」という枠組みで、メディアリテラシーを高めるための試験的な試みも募っています。

来年ECがサポートするプロジェクトの1つが、2018年1月に始動予定の「Media In Action」です。

サイトによると、6-18歳の教育に関わる70人の教員や地域リーダー、図書館司書などにトレーニングを実施。まずは「教える側」にアプローチし、最終的に生徒たちに知識を還元しようというプロジェクトです。メディアやニュースの仕組みを学び、ブログ、ビデオ、ポッドキャストを使ったコンテンツ作りも視野に入れています。

イタリア、イギリス、ポルトガルなど複数の国から団体が参加。BBCのプログラムと同様、オンライン教材は誰でもアクセス可能になるとしています。

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http://mediainaction.eu/media-in-action/

 

次回は、アメリカでの取り組みに焦点を当てたいと思います。

 

デジタルネイティブは、フェイクニュースを見抜けるか?

デジタルネイティブ」世代は、ネット上の嘘と事実を区別することができるのか?

海外のいくつかの研究によると、SNSに早くから親しんでいる若者でも「フェイクニュース」を見分ける能力は高くないという結果が報告されています。

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 4人に1人が「ネットの情報すべて正しい」

英情報通信庁(Ofcom)の2017年の調査によると、自分専用のスマートフォンを持っている生徒の割合は8-11歳で39%、12-15歳では83%に上ります。宿題などでインターネットを利用している生徒のほぼ4人に1人(8-11歳の25%、12-15歳の23%)が、ウェブサイトやアプリ上で目にする情報は「すべて真実だと思う」と回答しました。

英サルフォード大と国営放送BBCの1年に及ぶ調査でも、9-14歳の生徒の大半が「フェイクニュースとは何かを知っている」と答えたものの、偽情報を必ずしも区別することはできなかったという結果が報告されています。

また、アメリカで計約7,800人の中高生・大学生を対象に行われたスタンフォード大の研究(2016年)は、若者が広告や偽コンテンツと正しい情報を区別する能力の低さを、次のように指摘しています。

"若い世代がインターネット上の情報について理論的に考える力は、「乏しい(bleak)」の一言に尽きる。デジタルネイティブたちはFacebookTwitterを使いこなしながら、Instagramに自撮り写真を投稿し、友達にメッセージを送る。だがソーシャルメディア上に漂う情報を見分けるとなると、簡単にだまされてしまう。"

 

研究では、福島第一原発事故の影響で植物に異常が見られたことを示唆するようなキャプション付きの写真(実際にネット上に投稿されたもの)を見せました。40%近い生徒が「原発周辺の状況を示す強い証拠だ」と答えた一方、情報の出所について何も記述がないことを指摘した生徒は20%未満でした。

 

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EVALUATING INFORMATION : THE CORNERSTONE OF CIVIC ONLINE REASONING

生徒の4分の1は「強い証拠とは言えない」と答えましたが、理由として挙げられたのは「放射能の影響を受けたと思われるほかの動物や植物が写っていないから」というものでした。

論文は、生徒たちが「写真に注意を奪われ、写真のみに頼って投稿の信頼性を評価」しており、情報源など基本的な情報の確認ができていなかったと述べています。

8割がネイティブ広告を「本物のニュース」

スタンフォード大は、生徒たちが広告とニュース記事を区別できるかどうかも調査しました。従来型広告、ニュース記事、ネイティブ広告の3種類が掲載されたウェブサイトを見せたところ、対象となった生徒の80%以上が「スポンサー記事」と明記されたコンテンツでも「本物のニュース(real news)」だと回答。

論文は「生徒たちが『スポンサー記事』の意味を理解していないことを示している。これは小学生のうちから明確に教えなくてはならないことだ」と警告しています。

 

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EVALUATING INFORMATION: THE CORNERSTONE OF CIVIC ONLINE REASONING

 こうした状況の中、海外の教育現場ではデジタルネイティブ世代に向けたメディアリテラシー教育も始まっています。次回のブログでは、「フェイクニュース」を見分ける方法を教える欧米の試みを紹介します。